蔵跡の畑は豊作!

2017年に倒した蔵では、かつて清子さんがマッシュルームを育て、熊山から岡山のレストランへ売りに行きました。

その生活を偲び、今年は蔵跡の土を耕し、野菜畑にしました。トマト・ミニトマト・長なす・きゅうり・ピーマンと畑は大豊作。

大きな幼虫も訪れ、雨の日は小さな蛙が飛び跳ねています。

 

「蝶のめいてい」    永瀬清子

 

 梅酒のかめから別のガラス瓶に甘い汁をうつしていると、しずくが板の間にこぼれた。雑巾できれいに拭いてほかの事をしていると、うす茶の翅をもった蝶が一羽、いつのまにか来て板の間にじっととまっている。

 目にも入らぬ板の間のすき間のところに小さい細い吻をさしこんで、甘い汁を吸っているのだ。

 私の手がそばまでいくと、一寸舞い立つが、又そのすき間へ戻ってしずかに吸っている。いかにもおいしいものをみつけたかのように。

 私は顔を近づけてその翅をみた。よいデザイン。黒い眼のような紋があるな。 片方の翅の長さが4センチはあるな。蝶はうごくともみえずじっとしている。

 私は全部拭いてしまったつもりなのに、蝶にとっては、すき間のこぼれは大きなかめで飲むのと同じなんだろう。

 かわいそうな、かわいそうな、そして幸福なものよ。夏の間にたんとたんとお飲み、と私は大尽であるかのように胸をはって蝶に云った。

 

『短章集 蝶のめいてい/流れる髪』思潮社